東京高等裁判所 昭和31年(う)2454号 判決
被告人 藤崎儀三郎
〔抄 録〕
弁護人の論旨第二点一。
本件殺人罪の殺意の点につき起訴状の訴因は被告人は被害者吉一が土間入口雨戸を薪割で打ち破ろうとしたのでこの暴行を阻止する考で本件鍬を両手に持つて同人の背後からその右腕辺り目掛けて振り下したところ狙いが外れて同人の右側頭部を殴打する結果となり因つて同人をしてその苦痛から免れさせる為に殺害するに如かずと決意して同人の頭部を更に前記鍬の峯で二回続けざまに強打し因て同人を脳障害で死亡するに至らしめた旨であるところ、原判決の認定するところは被告人は右吉一が土間入口雨戸を薪割で乱打するのを見て何をするのだと言つて阻止しようとしたが聞き入れないのみか却つて此の野郎と言い乍ら右薪割をかざして立ち向う素振を示した上尚も雨戸を叩こうとするので憤激の余り吉一を殺害してもやむを得ないと決意し馬小屋附近にあつた鍬を取り出し同人の背後よりその頭部を三回殴打し因つて同人をして脳障害の為死に至らしめた主旨であることは所論のとおりであり、両者とも被告人が吉一を殺害したものであるという基本的事実には差異はないが、殺意の点に関し起訴状の訴因と原判決が認定するところとはその発生原因、状況、程度が異なり、原判決の認定するところは起訴状の訴因の範囲内とは到底認められないのである。
しからば原判決がその認定する如く殺意を認定する為には起訴状の訴因を変更した上でなければ許されないところと認められるのに、原審がこの手続を行つた事跡は存しない。而して本件起訴状の訴因と原判決の認定するところではその犯情に影響するところあることは後に論旨第一点において説明するとおりで結局右訴訟手続の法令違背は判決に影響を及ぼすものであるから論旨は理由があり、原判決は先ずこの点において破棄すべきものとする。
(久礼田 武田 石井文)